カモミール・ロマンス
「むーすーんで、ひーらいーて、手をうって、むーすんでー」
「あ、それ、懐かしい歌だね」
サッカーゴールが正面にくる、石の階段に腰掛けて翔と美優が弁当を食べている。
「すっごい好きなんですけど、たまに何だか悲しい曲だな。って思うんです」
隣に座って他愛のない話をして、それだけで時間がゆっくりと流れていく気さえする。
「そうかなぁ?楽しい歌だと僕は思うんだけどな。
美優ちゃんはどんなところが悲しいと思うの?」
美優はむすんだ手を少し見つめる。
そしてゆっくりと開いてから、話し始めるのだった。
「きっと、この手の中には大事な物とか人とか、想いが握られているんです。
むすんでひらいて、手を打ってむすんで……
すっごく、すっごく大事にしているのに、最後には手を開いたまま空に向かって投げてしまう。
なんだか悲しくないですか?」
じっと見つめられて翔は鼻をかいた。
そして「うーん」とうなって考える。