カモミール・ロマンス
「……むすんだ手の中に大事な物か。面白い考え方だなぁ」
翔も自分の手を握ったり開いたり繰り返す。
そしてふと手を止めた。
「……なら、これは願い事をしているのかも」
「願い事……ですか?」
「うん、手を叩くところが二回あるでしょ?
これって自分と相手の幸せを願っているんじゃないかな。なんて……可笑しいよね?」
翔がそう言ってはにかむと美優は真剣な顔で首をふった。
「可笑しくなんて無いです。先輩らしい優しい考え方だと私は思います」
「あはは、そうかな?」
美優は小さく頷く。
翔はサッカーゴールを見ながら鼻の頭をかいた。
「あのさ……その。
そろそろ先輩じゃなくて、名前とかで呼んで欲しいなぁ……なんて、その……」
目だけを美優に向ける翔。
「あ、は……はい。じゃあ翔くんて呼びます」
「うん、そうして」
名前を呼ぶだけで胸がそわそわして、名前を呼ばれただけで胸が高鳴った。
いつかそれも当り前になってしまう時が来るのだけれど、この一瞬がずっと続くのだと思ってしまう。
「……あ、そうか」