カモミール・ロマンス
「私ねアロマテラピーに興味があるんだけど、この香りが一番好き。
ユキ君のりんごみたいな香りってよく分かるな。私も最初はりんごだと思ってたし。
それで好きになったみたいなところがあるから」
自分の鼻の前に少し香水をして、沙織は目を瞑りながら香りを楽しむ。
「男の人は花の香りは苦手っていうけど、これはフルーツみたいだから大丈夫でしょ?
だからユキ君も好きになったんだよね?」
沙織は勇気の顔を覗き込んでそう聞いた。
勇気はまた顔をそらして、今度は目だけを沙織に向ける。
「えっと、その……
オレは、その、沙織ちゃんが付けてる香水の香りだから好きになったんだけど」
言っていて恥ずかしくなったのか、勇気は最後に手で口をおおった。
沙織は目をぱちくりさせる。
そして、少しだけ頬をピンク色にしてはにかんだ。
「そっか、ありがとう。
……あれ?ありがとうって何か可笑しいのかな?あれれ?」
「ははは」
りんごの香りの名前を知った。
それがどんな花なのか色も形も何も分からないけど、その花の香りが2人だけの暗号の様で嬉しかった。