カモミール・ロマンス
香代と連絡を取って沙織がベンチに戻ってくる。
2人は寄り添う様に隣に座った。
歩きながら食べたチョコバナナのゴミを入れた袋がカサカサと鳴る。
薄い雲が光を透かせていて、体育館からバンドの演奏が聞こえていた。
少しズレたリズムが可笑しくてなのか、沙織は声に出さずに笑っていた。
勇気は少しだけ身体をズラして沙織の肩に自分の肩をそっと当ててみた。
柔らかな感触と一緒にカモミールの香りがして、くすぐったい様な幸せを感じた。
『チャララー♪』
流行のグループの新曲の着うたが流れて、沙織が電話に出た。
「もしもし。あ、香代もう校門に着いたの?
うん、うん。分かった。じゃあ今から向かうね」
パタンと携帯が閉じられる。
それは夜に読んでもらった物語の終わりの様に、名残惜しさを感じさせる。
沙織が立ち上がり、勇気もゆっくりと立つ。
「今日はありがとう。文化祭も楽しかったし、ユキ君と久しぶりに話せて嬉しかったよ。
じゃあ、えっと……またね」
笑顔で手を振って沙織が校門へと向かっていく。