カモミール・ロマンス
美咲はくすっと笑った。
「何?どうしたの?」
隣を見ると10センチ以上は美咲よりも背の高くなった直也がいる。
「ううん、何でもないよ」
直也はポリポリと頭をかく。
そして桜の花を差し出しながら言うのだった。
「オレはあの時の約束を忘れてないよ。
絶対に美咲を守ってやるって」
美咲はそれを受け取ろうと手を伸ばしたが、その手が止まる。
美咲は俯いた。
直也はがしっと美咲の手を掴んで、無理矢理に桜の花を握らせた。
「何かあったらオレが守ってやるから。
だから、だから……」
直也は抱き寄せようとした手を引っ込めた。
そして美咲の横を過ぎていく。
「約束だから。オレは美咲を守るから。
絶対……絶対に」
背中越しに直也の足音が遠退いていく。
美咲は握りしめていた手を開き、鮮やかなピンクの花を見つめる。
「ゴメンねナオ。ダメなんだよ。
今回はナオに頼ったらダメなんだ……そしたら私はきっと、もっと……」
パタッと地面に涙が落ちる。
風が拭いて桜の木が揺れた。
ぶわっと舞うピンクは嫌になるほど鮮やかで、悲しくなるくらいに愛しい記憶を染めていた。