カモミール・ロマンス
深く頭を下げた沙織。
勇気はドシンと胸に何かを落とされた様にさえ感じた。
すぐに笑顔を取り繕い言う。
「そっか、そうだよね。
いや、良いんだよ本当。ただ何て言うか……
オレの気持ちを沙織ちゃんに知って欲しかっただけだからさ。はは」
沙織は、小さな声でもう一度だけ「ごめんなさい」と頭を下げる。
勇気は時計なんか見てもいないのに言う。
「そ、そろそろバスが来ちゃうんじゃない?
今日は来てくれてありがとう」
沙織は顔を上げて、こくりと頷く。
「今日は本当に楽しかったよ。
その……ユキくんの気持ちにはまだ応えてあげられないけど、凄く嬉しかった」
沙織は手を振って香代が待つバス停へと去っていく。
振っていた手はいつの間にか、下に降りていた。
勇気はただ見つめるのだった。
りんごの香りと長い黒髪が揺れているのを。