カモミール・ロマンス
気が付くとバスがもう目の先にある信号の所にまで来ていた。
「ユキー、ユキーっ!」
遠くから声がして勇気が振り返ると翔が走ってきていた。
バスがバス停に停まる。
「ユキ、止めて。バス止めてーっ」
手を振りながら走り、そう叫ぶ翔。
勇気はバスの後ろに座って、笑らいながらバスから翔に手を振った。
翔は残りの50メートルを全力で駆け抜ける。
勇気が何か伝えたわけではないが、運転手は停まってくれていたらしい。
翔が乗るのを待ってからドアを閉め、バスを発車させた。
翔は息を切らしながら勇気の座る最後部に座る。
「よっ、おはよ」
勇気が揺れている翔の肩を叩き、笑顔でそう言う。
翔は少し血走っている目で勇気に振り向く。
「ユキぃー、何で止めてくれなかったの!?
ってか何で悠長に手なんか振っちゃってるの!?ねぇ!?
…………ユキ?」
翔は突然に外に身を乗り出した勇気を見る。
その視線の先には2人の女子高生がいた。
「なに女の子なんか見ちゃってるのさ?」
気に食わないような翔の言い方。
勇気は観念したかのように言う。
「沙織ちゃん……久しぶりに見れた」