カモミール・ロマンス
走りだした勇気を追い掛けて宥めた翔が直也のいる屋上に再び戻ってきた。
翔は直也の傍にゆっくりと座る。
「まったくもう、どうして2人は言いにくいことをズバズバと言っちゃうかな?」
勇気の一生懸命に描いた絵を落書きと言えてしまう直也。
そんな直也に対してストレートにバカと言える勇気。
心のどこかで翔はそんな2人を羨ましくさえ思っていた。
直也は地面に寝転がりながら言う。
「翔は頭で考え過ぎなんだよ。
フィルターばっかり通すから端から見たら綺麗な言葉なのかもしれないけど、モヤモヤしたのいっぱい溜まってるんじゃないの?そこ」
「そこ」と言って直也は翔の胸を指差した。
翔は力なく微笑む。
「うん……分かってはいるつもりなんだけど、ね」
翔は開いた手を空に向かって伸ばした。
「ユキ、何か言ってた?」
直也の小さな声に、翔は少し驚いていた。
その言葉の中に普段は見せない不安や焦りが混じっているように思えたからだ。
「…………。
ズルいよな、って言ってた。
ナオはいつも寝てるくせに何でもこなして、才能も何でもオレが欲しい物は全部持ってる。
それがズルいって」
そう言って翔が笑う。
直也はゆっくりと目を覆うように腕をかぶした。