カモミール・ロマンス
渡部と話をしていた翔が、部員達に10分遅れて部室に入った。
「……あれ?皆もう帰っちゃった?」
部室に残っていたのは2年生が3人と、1年生が1人だった。
「さっさと着替えて、ぱーって帰っちゃいましたよ」
2年生の3人うちの1人、吉沢がそう言った。
翔は自分のロッカーの前まで行き、ロッカーを開けた。
一番奥の右手側。
そのロッカーは代々のキャプテンが使っていた場所で、ロッカーの内側にはメッセージが残されている。
そのメッセージの一つを翔は指でなぞる。
「じゃあ、うちらも帰りますね。キャプテン」
「うん、お疲れさま」
翔を残して部員達が部室を後にした。
翔はユニホームを脱ぐ。
タオルで汗をふいて、さらさらシートを使い、制汗スプレーをする。
制汗スプレーのヒヤッとした感覚が、妙に肌を刺激した様に感じた。
「……難しいもんだな」
翔の呟きがそのロッカーに吸い込まれる。
きっと今までもこれから先も、このロッカーは悩めるキャプテンの怒りや呟きを飲み込んでいくのだろう。
「頑張れ、頑張れ僕」