カモミール・ロマンス

「はー、もう無理。花は摘んだんだし諦めようよ」

最初に音を上げたのは美咲だった。

手のひらの中で少しだけ萎れてしまった花を差し出しながら。

「確かに栞にする為の花は採ったんだしもう……」

ちらりと見た勇気の真剣な表情に翔は最後の言葉を飲み込んだ。

「ユキ……」

ワイシャツもぐちゃぐちゃ、ズボンは泥で汚れて。

それでもただ一生懸命にそれを探している。

「なぁナオ。探さないんだったら退いてくれないか?その辺もやっぱり見てみたい」

勇気が膝をすりながら直也の側に来てそう言った。

直也はふぅとため息を吐く。

「分かったよ。退けば良いんでしょ。退けば……ほら」

直也が足を退けた場所は靴の形に葉っぱが押しつぶされていた。

「……あった。」

震えるような勇気の声。

「あった四つ葉だよ。あったー」

靴の形の跡の中、それは健気にもしっかりと茎を伸ばしていた。

「見ろ、見ろよ美咲。四つ葉だよ、四つ葉」

にかっ。と豪快な笑顔を見せながら四つ葉を見せる勇気。

「うん、ありがとうユキ」




< 24 / 228 >

この作品をシェア

pagetop