カモミール・ロマンス
「ねぇ、もしかして。翔、その子のこと好きになっちゃったんじゃない?」
美咲の質問にはっとした翔。
誰もいない校門を見つめながら、ぼそりと言う。
「…………うん。そうなのかもしれない」
「そっか。なんか翔が優しい顔になったと思ったけど、そういうことだったのね」
にっ、と笑う美咲。
誰にも聞こえないくらいの声で、翔は「かなわないなぁ」とこぼした。
「えー、翔が優しい顔なのは今に始まったことじゃないじゃん」
「そうだよ。全然変わったの分かんないんだけど」
不思議そうに眉をひそめる勇気と直也。
「いいの。女の子にしか分からない違いってのあるのよ」
「「えー」」
納得のいかない2人がまじまじと翔の顔を覗き込む。
涼しい風が肌を撫で、ゆっくりと時間は過ぎていく。
大会の次の日から笠井はマネージャーとして、引退まで部に残ることになった。
翔と美優が一緒に下校することはなくなったが、サッカーを熱く語るメールは今でも続いているのだった。