誉め称えよ
例えば、駅のホーム。
到着する瞬間のあの風を肌で感じながら、電車に指を出せばどれほど損傷するのだろうか。造形がどうぐちゃぐちゃに歪むだろうか。
指じゃなく顔を鼻先から大根おろしみたいに電車ですらせてみれば、いつまで人は悲鳴をあげていられるのだろうか。
(人が飛び降りる瞬間は、僕の記憶へと色鮮やかに残っているので除外)
彼女と話している時も、家族や他人と話している時も、そう。
誰かと話しながら、頭の中でシュミレーションされてる。
あの細く華奢な彼女の体を階段から叩くように軽く押せば、体の部品はどんな方向に向くのだろう。人形みたいに、首が後ろに向いた時のその表情は変わらず、可愛らしく守ってあげたいと人々は思うのだろうか。
母が窓から顔をだして、隣近所の人と話している瞬間、ステンレス製の窓を勢いよくスパンと閉じればその首はどこへ転がって、最後まで世間話を話しているのだろうか。
彼女を後ろから優しく抱擁しながら、首と顔に手を回して勢いよく力を入れればコキュリ、と彼女の顔だけが僕へと向いて、それでも尚、僕に愛情を捧げてみせてくれるのだろうか。
セックスする時、彼女の体を見れば性的本能で僕の体は“一般男子”らしく反応して興奮するようだが、彼女の死に方をシュミレーションする方が――彼女の生と死が切り替えられ共存するその一瞬の間を考えると、固唾をのむ。
脳がしびれてしまうような、恋心に似たものが切なく僕の心を支配する。
ああ、今も考えただけで……。
こみ上げる衝動を抑えるべく、ハァ、とゆっくり息を吐いた。