ひとひらの
諦めて更衣室に戻ったとき、
春菜さんはもう帰られていた。


あの吉川さんが、怒ったなんて…

正直、想像出来なかった。

だって私は、
笑っている吉川さんしか知らない。

子供みたいにヘラヘラと笑って、
何考えてるかわかんないような、
何も考えてないような、

そんな、ひとで…


……ううん。

本当は、そんなことなんてない。

ただ吉川さんは
私が気付かないほどに

さりげなく、本当にさりげなく
周りのフォローが出来る人なんだ。

きっと
『間違えて買っちゃった』
っていうあの微糖のコーヒーも嘘。

あの人なりの優しさだったんだ。

もしかしたら、さっきバックヤードにきたのも…

『調子はどう?』


そう思うと、胸が熱くなった。

熱くて、痛い。

涙が出てきそうだ。



これが何なのか、

経験のない私でもわかるよ。



これが、恋なんだ。
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