ひとひらの
着いた先は、小さな洋食屋さんだった。

「"プロヴァンス"?」

初めて見るお店だった。

「ここはね、俺の馴染みの店。」

「ふぇー」

「結構おいしいよ。
さ、行こ。」

そう言って彼は、私を中へと促した。


店の中は2、3人のお客さんがいるだけで
とても静かだった。


でも、小花柄の壁紙に
市松模様の床、
焦げ茶色のテーブルと、
とても可愛いお店だった。

「あら、ハル君じゃない。」

厨房の中から聞こえてきた声に振り向くと
明るい笑顔を輝かせた女性が
身を乗り出してこっちを見ていた。

「おばちゃん、久しぶり~」

「ホントに、長いこと顔出さないで何してたのさ~

あら、ちょっと、新しい彼女?」

「あはは、違うよ~」

「本当にもう、
百合子が聞いたら泣くね。」

ユリコ?

「あはは、それはないね」

そう言いながら彼は、私を席へ案内した。

「あの、ユリコさん…って…」

「ん?
あぁ、あのおばちゃんの娘で、
俺の幼なじみ。」

「…元カノ、だったり?」

私は、思わず聞いてしまった。

彼は一瞬、片眉をピクリとさせたが、

間もなくまたあの笑顔で

「鋭いね。」

と言った。
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