ひとひらの
「吉川さん、それはダメです。」

「いやいや、ここは譲れないから、諦めて?」

「ダメですよ…」


今話しているのは、お会計の話。

私の分まで出そうとする吉川さんに
せめて自分の分だけは払おうとする私。

誘ったのは私だし、車も出してもらって、
奢ってもらう関係でもないし…

そんなことを気にする素振りもなく、
吉川さんは財布を開いている。

「はいはい。
女の子はね、こういうとき素直にお礼を言うのが可愛いんだよ。」

そう言ってお釣りを受け取った手で
私の頭を小突いた。


どうせ、可愛くないもん…。

今の私は、可愛い女の子になるよりも、
吉川さんの迷惑にならないほうが
大切だと思った。

「おばちゃんもサービスしてくれたし、気にしない、ね?
はい、飴ちゃん。」

渡してきたのは、カウンターに置いてある、口直しの飴玉。

「…。」

完璧子供扱い。

諦めた私は、素直に

「ありがとう、ございます。」
と小さく言った。
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