ハネノネ ‐the world that you saved.‐
供えられたワクチンはふたつ。
ひとつは男の、もうひとつは…?
男を包むように纏った羽根に目をやる。
まるで、天使の羽根。
感じた予感は、
きっとこれだ。
「報告追加。」
「なんだぁ?」
奴は報告用の携帯電話を片手に、まぬけな声を出した。
きっと誰も、夢にも思わなかった。
「ハネノネが死んだ。」
携帯電話が落ちる音がしたと同時に、「はぁっ?!」という声も聞こえてきた。
それはそうだ。
なにせ僕らが聞かされたハネノネの話の中に“死”の言葉が存在しない。
生後間もなく放置されても生きているんだ。
“いずれ死ぬもの”という概念さえ、そもそも無かった。
でも、この羽根はきっとハネノネの亡骸だ。
証拠があったわけではないが、そう確信した。