“シネバイイノニ”
「いや、無いですけど」
望人は平然と答える。
そして、その返答に一瞬、老人が安堵の表情を浮かべたのを、望人は見逃さなかった。
「そらみろッ!無いのによくそんな事言えるな!言いがかりもいい所だ!そうやってありもしない事をでっち上げて金をゆすろうって魂胆か?!ああッ?」
老人は増長して望人に食って掛かる。
「……やめる気は無いんですか?」
望人は人ごみの電車の中で、しかし犯行の現場をハッキリと見ていた。
いい年した老人が今更シラを切るとは見苦しいと思いながら、望人は頭の中で“あの言葉”を使用するという考えがよぎり始める。