“シネバイイノニ”
望人はそのまま直立不動で痴漢の後姿をじっと見守る。
恐らくこれまで幾多の犯行を重ねてきたのであろう男に情を与える必要は無く、死の言葉を躊躇う必要は無かったが、しかし望人には何らかの確信があった。
息を切らせてホームを逃げ惑う男は突然目の前に現れた人と正面衝突しそうになる。
そして慌てて横に逸れ、しかしその先にも人が居て、それをも身体をひねって避けようとするから体勢が崩れて身体が傾く。
そして、その身体を傾けた先は黄色い線の外側、線路の上で、そして丁度そこは望人、そして痴漢の乗っていた電車の『次』が到着する瞬間の場所でもあった。