“シネバイイノニ”
駅を飛び出して学校までの道を歩く。
横断歩道を渡ろうとするといつも通り、予想通り、その瞬間に赤に変わる。
望人は立ち止まる。
忘れもしない、そこは先日自分がトラックの運転手に向かって死の言葉を使用した場所。
心臓の鼓動が止まらない。
望人はその動悸の原因をやっと理解する。
今まで自分以外に“その言葉”を使う人間は存在しないと思っていた。
即ち、望人自身は言葉を使う立場の人間であって、“使われる立場”に回る事が一生無いと考えていた。
それはある種、望人の絶対的な心の余裕にも繋がっていた事である。