“シネバイイノニ”
しかし今、自分以外に言葉を発する事ができる人間が存在する事が判明した今、望人は自動的に“言葉を使用される側”へと回った。
次の瞬間自分は……殺されるかもしれない。
嫌な汗がジワリとカッターシャツに染み込んでいるのと信号が青に変わった事を確認してから、望人は横断歩道を渡る。
そして心の中でゆっくりとルールを反芻する。
『言葉を使用して死に至るのは……悪い人間だけ』
『自分が悪いのに言葉を使用すると……言葉を発した人間が死ぬ』
そう、望人が今まで(しようともしなかったが)出来なかったように、理不尽な無差別殺人は出来ない。
その事をもう一度、心に強く記憶させて望人は安堵する。