“シネバイイノニ”
「追い越そうと私は右に避けようとするんだけどね……。どうしてだろう、おばさんも必ず同時に右に動くの。必ず。100パーセント」
サケをたっぷり食べてお腹が膨れた子猫は満足そうに座っている瀬織の腰に首元を擦り付け、ゴロゴロと喉を鳴らす。
「鬱陶しいなと思って今度は左に避けようとする。すると、またそのおばさんも左に動くの。……おばさんの目は後ろに付いていると思う?」
「そんなわけ……ないだろ」
何を馬鹿な事を……と思いつつも望人は予感する。
常識で考えれば訳のわからない事をのたまっている目の前の女子生徒が、何を言わんとしているのか自分には理解できそうだと思っている事を。