“シネバイイノニ”
相変わらず傍聴席は沈黙に包まれていて、最初から最後までその沈黙が破られる事は無い筈だった。
しかし突如、瀬織の隣に座っていた中年の男がおもむろに立ち上がり、布でくるんだ包丁を抜き出して傍聴席と法廷とを仕切る柵を乗り越えたその一瞬後には、被告の男の首と胸に包丁をつき立てていた。
法廷に叫び声が上がり、それでも刺す事を止めない中年男が警備員に取り押さえられるまでの一部始終を瀬織は見ていた。