借金取りに捕らわれて
声がした方を振り返ろうと首を動かすよりも先に、腕を捕まれ無理矢理立たされる方が早かった。



掴む腕の力も強く、急なこともあって、私はバランスを崩しそのまま彼の胸に飛び込む形となった。




そのままがっちりと腰を捕まれ、身動きが取れなくされてしまう。




彼には今まで、色々無理矢理されたけど今回のはどこか違和感を感じる…






「うおっ!!ちょっ、何すんだ隼人!!」






武寅さんの声に秋庭さんの胸から顔を上げて首だけ振り替える。



視線の先には、ペットボトルの水を傷だらけの顔面にぶっかけられている武寅さんが…




「あ、秋庭さん!?」





どうしてこんなことを!?と、秋庭さんを仰ぎ見ると、冷たいモノが頬にあてられた。





「ヒロ、これで冷やしとけ。」





渡されたのは、今しがたペットボトルの水で濡らしたハンカチだった。







熱を持った頬にひんやりと気持ち良い…







「ありがとうございます…」








「あと、これ。」


と、秋庭さんは眼鏡をそっと私の顔に戻した。





「あっ…すみません。」

って!つい言っちゃったけど、眼鏡奪ったの秋庭さんだから!


逃げて置いていったのは私だけど…


いつもならここで不平の一つも言っているところだ。
でも…


頬を冷やすハンカチがそれを押し留めた。









仕様がないですね、これで相殺してあげますよ…








負けたような気持ちなはずなのに、何故か嬉しい気持ちが膨れ上がっていく…


自分ではどうしようもないくらいの所まで来てしまったのが分かる…


それでも…


それでも…秋庭さんに悟られないようにすればきっと、大丈夫…









「武、目え覚めただろ。さっさと立て。」





私の心境の変化にまだ気付いていない秋庭さんはどこか不機嫌そうだ。





「秋庭さん、武寅さん直ぐ動くのは辛そうですし…」





私がみなまで言う前に秋庭さんは手を上げてそれを止めた。





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