借金取りに捕らわれて
私が何も言わないで困ったように微笑んだのを秋庭さんは否定と捉えたらしい。




「ヒロ、いつになったら俺の女になってくれるんだ?」




秋庭さんの…女か…


まだ、私には一歩踏み出す勇気がない。


だって…




「私、人と付き合うのが怖いんです。」




お酒の力か口が軽くなっているのが自分でも分かるのに、秋庭さんにこんなこと話して私はどうしたいんだろうとも思うのに、この話を止めようとは思わなかった。




「私…婚約してたんです。」




凄く昔の話みたいだけど、あれからもう一年が経った。

もうあの人のことはなんとも思ってない…

未練もない。それでも…

この話を人にするのは少し…辛い。




「でも、婚約破棄されちゃって。」




その辛さを隠すように微笑めば、秋庭さんは何も言わずテーブルに乗った私の手を握ってくれた。

触れる手から秋庭さんの暖かい体温が心まで染み込んでくるようだった。



秋庭さんには隠そうとしても分かってしまうのかもしれない。


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