借金取りに捕らわれて
私は横に並ぶ秋庭さんを仰ぎ見た。


秋庭さんはチラリと視線を合わせただけで、何を言うでもなく直ぐに視線を外す。



「昨日、気分転換に無理にでも連れ出すって言ってたからね。」



やっぱり…

お礼とか言って、私のためだったんだ…



「はい。とても気分転換させて頂きました。」


微笑んだ私に、ママは嬉しそうに頷いた。


「電話もらって、声聞いて安心したけど、やっぱり元気そうな顔見る方がより安心するね。」


「ママ…」


胸に暖かいものが込み上げてきて、私は胸の前で握った拳に力を込めた。


「若も、顔ぐらい見せに帰んな。」


「帰ってるよ。」


「爺さんのほうじゃなくて、…」


「なんだ、珍しい顔がいるな。」



ママの声に、ドスの利いた年配の男性の声が重なった。

その人はママと同じく花ノ衣の暖簾を押し上げて出てきた。



年の頃は60代後半くらいだろうか。
白髪の小柄なおじいさんで、左目の横に傷があり…
かなり強面だ。


「おう、玄(ゲン)さん。」


秋庭さんが玄さんと呼んだそのおじいさんは、隣にいる私に視線を向けると何かに驚いたように目を見開いた。


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