借金取りに捕らわれて
「分かりました。先に秋庭さんの分も飲んでますね。」


振り返り微笑めば、その弧を描く唇にチュッと音を立てて思いがけないキスが降ってきた。


不意打ちのキスに体が機能を止める。



「俺の分も飲んで、飲み潰れたヒロを好き勝手に介抱するのもいいが…
直ぐに行くから俺の分も取っといてくれ。」


「…はい。」


「良い子だ。」と、頭をポンポンと撫でた秋庭さんから逃れるように、そそくさと戸を開けた。




人の往来はなかったとしても、道端でキスとか/////

仮で付き合った途端これか…

リハビリと言うより、ショック療法に近い気が…

身が持ちますように。と祈りながら一歩店に入ると、菖蒲さんの「いらっしゃいませ。」と明るい声に迎えられた。


「あら!ヒロちゃん!また来てくれたのね。」


調理場から出てきた笑顔の菖蒲さんにペコリと頭を下げた。



「先日は…ご心配をお掛けしてすみませんでした。」


「元気そうで良かったわ。さあさ座って。今日は一人?」

「あっいえ、後から秋庭さんも来ます。」



店内はそれ程広くはないが、カウンター席と座敷、その間にテーブル席があり、お客さんは座敷に3人の既に酔いが回ったサラリーマン風の男性がいるだけだった。


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