借金取りに捕らわれて
3人組の席から一席空けた座敷のテーブルにどうぞと案内され、靴を脱ごうとしていた時、奥の暖簾が掛かった所から現れた人に急に声を掛けられた。


「ヒロ!」


「武寅さん!?」


それは、出来立ての青あざが痛々しく、顔のいたるところに絆創膏を貼った武寅さんだった。


頭に巻いた赤いバンダナも、今日はなんだか包帯のように見えて余計重症に見える。


「もう大丈夫なんですか!?」


秋庭さんから、武寅さんはマサさんがちゃんと"お医者さん"の所に連れて行ったと聞いていたから安心していたんだけど…

あれ程のケガをしたのに寝てなくて大丈夫なのだろうか?



「おうよ!あれくらいどうってことないぜ!」



あれくらいって…普通の人なら全治何週間とかじゃないのかな…



「それより、こっち来て一緒飲もうぜ。」


「えっ、あ、あの!」


強引に手を引かれ、あれよあれよと言う間に一番奥のカウンター席に座らされてしまった。

その横の席に置かれた徳利とお猪口、それに手をつけられた肴達から武寅さんが今まで一人で飲んでいたことが伺えた。


秋庭さんが来たら怒られそうだけど…
来たら席移ればいっか。



「何飲む?」


武寅さんから和紙の表紙のメニュー本を渡されたが、カウンター越しに菖蒲さんが声を掛けてくれた。


「森乃泉まだあるわよ。」


そう、私はこれを飲みに来たのだ。

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