借金取りに捕らわれて
「じゃあ、お湯割りでお願いします。あと、もつ煮込みも。」


本当はロックでいきたいところだけど、直ぐ酔っちゃうからな~


「はい、ちょっと待っててね。」


菖蒲さんは飾り棚から酒瓶を取り、お洒落な陶器のグラスにそれを注いでいく。


「ヒロ…」


「はい?」


待ちきれない子供のようにそれに見いっていた私が、遠慮がちな、でもどこか伊を決したように呼ぶ声の方へ顔を向けると、武寅さんは急に立ち上がったかと思えば床にゴンと凄い音を立てて頭をぶつけた。



「昨日は本当に悪かった!」



床に手を付き頭を下げ続ける武寅さんのその姿に、何事かと3人組のお客さんの興味ありげな視線が向けられているのを察しながら、私もそれをただ見つめていた。



思うところは色々あるのだ。

実際、秋庭さんが来なかったら、来るのに時間が掛かっていたら、今こうしていられなかった。

武寅さんが意図して巻き込んだわけじゃないのは分かっているけれど、私に起こったことは笑って無かったことに出来るものじゃない。

本当に怖かった…

今も思い出すと…

だけど…

どうしてか武寅さんを責める気にはなれなかった。
怒ってもいいはずなのに。

まぁ、無事だったわけだし、こうして森乃泉を飲めるわけだし…

それで良いのかな…とも思う自分がいる。



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