借金取りに捕らわれて
「ありがとうございました。ホント助かりました……」


頭を下げたときに、彼の左手に視線か止まった。


刃物か何かで切られたような鋭い傷から血が流れている。



「あの…血が…」



私の視線を追って手の甲を見ると、その人はあぁ~とそれまで忘れていたかのような声を漏らした。


「大したことじゃない…」



私は鞄から急いでハンカチを取り出すと彼の手を取りそれを押し当てた。



「深い傷じゃないかもしれませんけど、化膿しないように早く手当した方が良いですよ。」



私はそれからハンカチをグルッと巻き付けて結びつけた。


彼はその左手のハンカチに視線を落し呟いた。



「すまない…綺麗なハンカチだったのに汚してしまったな…」


私がしたくて手当(とも呼べない手当だけど…)をしただけなのに…


「気にしないで下さい。ハンカチならもう一枚持ってますから。」


私が微笑むと、男の人は無表情で私の顔をじっと見つめた。



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