カノジョの秘密。
「ちょい待て。一人、ってなんだよ。」

堂島さんがいきなり冷静な表情に変わる。

「あ。」

しまった、変なこと言ってしまった。

「おい、言えよ。」

言い澱むあたしに、堂島さんが催促する。

「あたし、両親いないんで。中2の時に死んで、おばあちゃんに引き取られたけど、おばあちゃんは高校入ってすぐ死んで。だから一人なんです。」

こういう話は、いつするのも嫌な気分だ。
だって大抵人は、可哀相って言うんだもん・・。

「でもあたし、平気ですよ。案外、あんなアパートでも、安全に暮らせてるし。」

「・・安全、ねえ。じゃあ、あれは?」

「え?」

堂島さんが窓の外に、指をさす。その方向をみて、驚いた。

「あれ・・。」

「お前を襲ったヤツらの仲間じゃねえの?」

「そんな・・。」

あたしの部屋の前には、いつの間にか、いかにもガラの悪そうな人たちがたむろしていた。それはあたしを待っている、という証明だった。

「どうしよう・・。」

あそこからどいてくれなかったら、家にも入れない。
そしたらあたしには、帰る場所がない。

「どうしようもこうしようも、もうあそこには帰れねえだろ。多分あいつら、お前をぼこすまであそこどかないつもりなんじゃねえの?」

「そんな・・・。そんなの、困るよ。だってあたし・・・、お金だってないし、あそこしか住む所ないのに・・。」

拳をギュッと握った。
あたしには、あの場所しかない。
だけど、目の前には敵。
勝てる見込みはゼロ。

どうしたらいい?

・・そうだ。

「・・・・ぼこられれば、いいんでしょ。」

「は?」

「あたし、謝ってくる。それでも殴られるなら、殴られてくる。」

「おい、ちょ、待て。正気かよ?」

驚いている堂島さんを、窓から目を離して見た。

「だって、あたしにはあの場所しかないの!住み続けるために、ぼこられるのが必要なら、ぼこられる!それしかないもん。」

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