あの頃から君は
 どこか冷めたように小巻は思った。担任として、学校に来ない生徒をどうにかしなければならないのだろう。それが先生の仕事なのかもしれないけれど。職員室で問題になっているのだろうか。大人の事情はよく分からない。

「歩いて帰ります。家、近いですし」
「あ、そう?気を付けてね」

 伊藤がほっとしたように見えた。

「そうそう、篠崎さんも心配していたわよ」

 まるで切り札と言わんばかりに告げられ、小巻は笑みを作る。

「はい。頑張ってみます」

 微妙に噛み合わない返事に、伊藤は困ったように笑った。

「じゃあ、失礼します。先生、さようなら」

 教室を出ても、セピア色の空気は変わらなかった。小巻は人気のない廊下をぼんやり歩く。
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