あの頃から君は
「ずっと会ってないよ。俺、小巻に振られたしさ」
「何それ、初耳だけど」
「へえ、そうなんだ」

 総司はそれだけ言って、メニューに手を伸ばした。二つ折りのメニューを開くと、アルバムみたいに色とりどりの写真が並んでいた。

「ちょっと、あんたいつから小巻を好きだったのよ?」
「昔の話だろ」

 身を乗り出した美羽の頭をメニューで小突き、総司は苦笑した。
 美羽はその答えに納得出来ず、口を尖らせた。そんな面白いことが起きていたのに、自分は蚊帳の外だったのだ。少しくらい相談してくれても良かったのに。協力したのに。そう思っても、全て今更なのだからつまらない。それなら詳しく話してくれても良いじゃないか、と美羽は思った。

「小巻もなんで黙ってたのかなあ」
「俺に聞くなよ」

 困り顔の総司を余所に、美羽は唸り声を上げて人の多い路地に視線を向けた。
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