旦那様は社長 ♥特別編♥
それは偶然の出来事。
悠河に頼まれて人事部に書類を持って行った後、社長室に戻ってドアノブに手をかけた時、偶然聞こえた悠河と藤堂さんの会話。
「お前、また昨日も女と一緒だったのか」
溜め息交じりの呆れたような悠河の声とは対照的に、テンション高めな藤堂さんの声が廊下まで響いた。
「前にも言ったろ。オレの身体の栄養源は女だって」
「開き直るなよ。ったく、で?昨日はどんな女だったんだ?」
「お?やけに今日は食いつくな。ははーん、もしや……浮気願望でも出てきたか?」
う、浮気……?
ドキンと胸が大きく鳴った。
「まぁ確かに、今が奇跡みたいなもんだもんな。お前にとって」
「どういう意味だ」
「だってそうだろ?以前のお前は、今のオレとたいして変わらなかったはずだ。それが突然“愛妻家”だなんて、無理ありすぎだろ」
藤堂さんがズシリとあたしの身体に大きな不安の石を落とす。
だけど悠河の次の言葉で、その石に大きな亀裂が入った。
「うるさいな。別にオレには浮気願望なんてねーよ。そんなことしたら光姫が悲しむだけだろ」
悠河……。
そうだよ。
昔がどうあったって、今の悠河はあたしだけを大切にしてくれるもん。
今の悠河はあたしを悲しませるようなこと、ぜったいしない。
心が軽くなってもう一度ドアノブに手をかけた時、藤堂さんが新たな巨石を落とした。
「ふーん。けどさ、今のって……光姫ちゃんが何とも思わなければするって意味だろ?浮気」