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「実は関西白虎会と盃を交わす話が出ている。虎間はその件で東京に来てるってわけだ」
「白虎会と……」
盃を交わすってことは、事実上白虎会と手を組むってことだ。
極道にとって盃事は、団結と統制を象徴し、組織への帰属意識を高めるための大事な儀式のことを差す。
暴力団組織の特色は、擬制の血縁関係で結ばれている。
その血縁関係を結ぶ為にも兄弟盃というものを交わすのが慣例だ。
しかし組織と組織の盃事になってくると事態は大掛かりなものになる。
「何で白虎会なんかと……」
あたしは思わず起き上がって、まだ横になったままの叔父貴を見下ろした。
叔父貴も起き上がると、忌々しそうに眉間に深く皺を寄せ、枕元のボードにあるタバコのケースに手を伸ばした。
ゆっくりした動作でタバコに火をつけるその動作は、こんなときまでも優雅だった。
「青龍会と白虎会は、勢力を増した玄武、朱雀に押され気味だ。今はいい。何とか食い止められるからな。だが勢いに乗った二つの勢力はいつ青龍会を食い破ってもおかしくない」
ため息とともに吐き出した煙は、天井に昇ることなく、いつまでも叔父貴の顔辺りにくすぶっていた。
まるでわずらわしい何かのように。
「でもっ!白虎会は次期当主を誰にするか内輪もめが絶えないって噂だ。内部抗争も勃発してるって。
そんなところと今手を組むなんて、危険極まりない!」
そう、頭の良い叔父貴にしちゃ随分安易な考えだ。そう思った。
叔父貴らしくない。
それとも叔父貴をここまで急き立てる何か他の理由があるって言うのか?
早く
早く
手遅れになる前に早く。
そんな心の声が聞こえた気がする。
何に焦っている。何から逃げようとしている―――?