。・*・。。*・Cherry Blossom・*・。。*・。
「て!てめぇ!!何俺の車に乗ってんだよ!!」
男の一人が怒鳴った。
「へぇこれあんたのかいな?だっせー車」
塀の……てか車の上の男がつま先で軽く屋根をつつく。
依然街灯の角度で、顔は見えないが腰から下は露になった。
声の割には華奢で、モデルのようにすらりとした足が長く伸びている。
「てっめぇ!!ぶっ殺してやる!!」
一人の男が拳を振り上げて、屋根の上の男に飛びかかる。
屋根の上の男はトレンチコートに手を突っ込んだまま素早く地面に飛び降り、着地すると同時に向かってくる男を素早く足払いした。
ドクリ!
あたしの心臓が一瞬激しく揺れた。
殴りかかった男はみっともなく地面に倒れる。
「なんや?威勢のいい割には大したもんじゃないなぁ」
「なっ!!アツヤ!てっめぇ、アツヤに何してくれたんだ!!?」
周りの男たちが一斉に声を張り上げ、それぞれ拳を握りコートの男に向かっていった。
四人、ううん五人一斉にだ。
「キャァァア!!」
あたしの背後でリコが悲鳴を上げる。
コートの男は素早く腰を捻ると、男たちに回し蹴りを食らわした。
一人が地面に倒れ、向かってくるもう一人の腹に今度は膝蹴りをお見舞いする。
やられた男がうめいて地面に膝をついた。
こいつ―――足腰が強靭だ。鍛え抜かれている。
そしてこの動き……
一瞬の隙もねぇ。計算しつくされた、いっそ芸術とも言えるその動きには一種の美しさを覚える。
男は僅かに見えた薄い唇ににやりと笑みを湛えている。余裕すら感じた。
それにこいつのは喧嘩じゃねぇ。まるで軍隊の動きそのものだ。