。・*・。。*・Cherry Blossom・*・。。*・。
唇が離れ、虎間はあたしの肩を軽く叩いて暗闇から押し出した。
慌てて振り返ると、奴はもうボンネットに昇っていた。
口元に笑みを湛え、軽くチュッと音を立て、投げキッスを寄越す。
な!なぁ~~~!!!
あたしは叫びだしたいのを堪え、思わず仁王立ちになって虎間を睨み上げた。
「かっこええなぁ。俺、あんたにマジで惚れたわ。“今の”は助けたお礼ってことで受け取らしてもろたで」
カァ!!っと顔が熱くなってあたしは口元をごしごしと乱暴に拭った。
「た、助けてくれなんて頼んでない!!」
「まぁあんたなら一人でも切り抜けられたろうやけど、お連れさんがいるんならええように暴れれんやろ?」
ムッカー!!こっちの弱みをしっかり握ってやがる!
虎間はひらりとジャンプして塀に飛び乗った。
猫みたいな奴……。そういや虎もネコ科だっけね。
「ほな」
コートのポケットに手を突っ込み、ひらりと裾を翻した。
バーバリーの裏地が今は憎らしいぜ。
でも、もう追う気力がなかった。
こっちはさっきのキスで戦意喪失だ。
それにリコもいる。
「あ、そや」
何を思い立ったのか、虎間は足を止めた。
「そいつらここいら一帯でかなり派手に女を拉致って暴行しとる常習犯や。サツに垂れ込んで引き取ってもらい」
それだけ言い置くと、今度こそ虎間は深い闇の中に姿を消した。
闇の中で、
「また近いうち会おうや」
と一言声がした。