。・*・。。*・Cherry Blossom・*・。。*・。
あたしの全部の“初めて”、それから希望に未来を奪った男が許せなかった。
台所で包丁を一本抜き取ると、鈍い光に自分の顔を映し出した。
これから人殺しをするという女の顔は
醜く歪んでいた。
それでも構わなかった。
この地獄から抜け出せるのなら、例えこの先どんな地獄が待っていようとあたしは耐えられる。
そう意気込んであたしは包丁を手に、ベッドであいつが現れるのを待っていた。
『朔羅』
あいつの低い声。
昔は大好きだった声。
でも、今は悪魔の声にしか聞こえないよ。
堕ちたもんだな、雪斗も。
ま、これからやることを思えばあたしも同罪か―――
あたしは包丁の柄をぐっと握った。
あたしは無言で雪斗を見据えた。
包丁の存在は、今は知られちゃならない。
もっと近く。
もっと間近じゃないと、しとめられない。
『どうしたの?いつもはすぐにあたしの元に来るじゃん』
『いや…。何だか今日はお前が違う女に見えた―――。なんていうの?いつの間に大人の女が浮かべる表情を身につけたんだ?』
『あんたが大人にしたんでしょ?今更何言っちゃってンの?』
あたしはわざと明るく言うと雪斗を手招きした。
不敵な笑みが浮かぶのを隠し切れなかった。
でも雪斗はちっとも疑ってない様子でちょっと笑うと、
『それもそうか』
と言って素直にあたしの元へ歩み寄ってきた。
あたしは包丁の柄を握り締めた。