。・*・。。*・Cherry Blossom・*・。。*・。
「いいけど…あたし下手だよ。ここ何年か触ってないし…」
「いいって」
戒は穏やかに微笑んで、琴を見た。
そっとその琴に触れると、冷たい感触がした。十三本の弦を指で触れると、覚えのある弾力が指にしっとりとなじむ。
多少調律が必要だが、思った以上に音は狂っていない。
爪(ツメ:琴を弾く際の指にはめるもの)がないから、どこまで弾けるか分かんないけど、右手の親指と人差し指、中指を弦に這わせ、あたしはちょっと弦を弾いた。
左手を使っての糸の押しの感覚も忘れていないようだ。
「よし。津軽じょんがら節なんてどうだ?琴風にアレンジして」
戒が上機嫌にあたしを見て撥を鳴らす。
あたしはちょっと苦い顔をして、戒を見上げた。
「できないこたぁないだろうけど、かなり難しいぞ?お前についていけるかな?」
「やってみなきゃ分からんねぇだろ?」
にやりと戒は笑う。
ホントに…どこまで俺様なんだか。
しかたなくあたしは弦に指を這わせた。
撥をかき鳴らして、戒が先を弾く。さっきの緩やかなリズムとは打って変わって軽快で、力強いリズム。
やっぱこいつ…上手い!
それに沿ってあたしも琴の弦を弾いた。
~♪♪……♪―――♪♪♪…
戒のかき鳴らす音は、あたしの琴の音色にしっくりとなじんだ。
あたしの指は戒の音色に触発され、細やかな動きを繰り出す。
やりやすい。
あたしは琴の弦を弾きながら、戒をちょっと見上げた。
撥をかき鳴らして、上へ行ったり下へ来たりと、まるで流れるような動作で動く手がなだらかで美しい。
戒はあたしに気づくとちょっと微笑みを返してきた。
あたしも戒に微笑みかけた。
同じ音色を通して、あたしは戒の抱えている不安を
中身は知らないものの、少しだけ感じ取ることができた。