。・*・。。*・Cherry Blossom・*・。。*・。
ベン…
最後の音を小さくかき鳴らすと、戒は撥を置いた。
あたしを見下ろして、少し眉を寄せ無理やり笑顔を作る。
「うまいじゃん。相当弾き込んでるな」
「そっちこそ。あたしはあんたについてくのが精一杯だ」
探り合うように視線を空中で絡ませ、やがてあたしは正座した膝をゆっくりと伸ばした。
正座なんて慣れてるけど、久しぶりに触った琴のせいかな?
緊張して、足の先がじんわりと痺れている。
痺れた足の指先を伸ばしながらあたしは目を伏せ、ゆっくりと口を開いた。
「お前……何か考えてるだろ?」
「何かって?」
「内容まで知らねぇよ。ただ……お前の弾く音は確かにうまかったけど、不安にまみれてた。違うか?」
虚を付かれたように戒が息を呑んだ気配が分かる。
「違う―――と言いたいところだけど、お前に隠し事するのは良くないよな?お前を不安にさせないため精一杯強がってたけど、やっぱ見抜いた……か」
諦めたようにため息を吐き、戒は三味線を脇へ退けた。
「言ってよ。あたしじゃ力になれない?」
いつも戒はあたしを助けてくれた。だから今度はあたしがこいつの力になりたい。
って言っても力になれるかどうかなんて分かりゃしないけど…
戒は膝の上で頬杖をつくと、半目であたしを見下ろしてきた。
その琥珀色の瞳が迷いでゆらゆらと揺れている。
こんな……
こんな戒を見るのは初めてだ。
いつも憎たらしいほど飄々としていて、くそ生意気なのに、今の戒はそれが微塵にも感じられない。
普通の男子高生がまとうまっとうな雰囲気だった。