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キョウスケの医学部発言に驚いている暇もなく、あたしたちは病室を抜け出すことをした。
廊下はとっくに消灯時間が過ぎているせいか、照明もほとんどなく薄暗い。入院患者はそれぞれ眠りに入っているのか、壁にずらりと並ぶ病室からは物音一つしない。
しん、と静まり返っている。
扉を開け、先にキョウスケが腰を低めて忍び足で廊下を行く。
壁が途切れるところで、キョウスケは振り返り、右手の人差し指と親指を立て、廊下の先を指し、二回ほど振った。そして今度は手のひらを垂直にすると、再び二回振る。
え?何だって??
「クリア(敵は居ない)だ。ついてこい、だと」
戒があたしの耳元でそっと囁いた。点滴の針は抜いていない。まだ胃が痛むのか、戒はほんの少しだけ表情を歪めている。
あたしは急に心配になった。
例えここが敵だらけの病院だとしても、今こんな状態の戒を脱出させていいものだろうか。
この先の潜伏先は……とりあえずキョウスケの研究室になっている。
そこで簡単な治療をしてもらえるはずだとキョウスケが言っていた。
「たかが胃炎だ。死ぬ程じゃねぇよ」
あたしの心配を読んでか、戒がにっと笑った。
「う…うん。そうだね」
あたしは戒の点滴パックを持ちながら、こいつの腕を支えた。
「行こうぜ」
暗い病院の廊下に赤い非常灯が転々と浮かび上がっている。
あたしにはまるでそれが何かを警告しているような、不穏な光に
見えた。