唇にキスを、首筋に口づけを
俺は食欲もないクセに人間界に入り込んで血を吸いまくった。
人間界に入り込むのだって境目を超えるわけだからものすごい体力がいるのに。
俺は自分を痛めつけてまで人間界に入った。
意味がわからん。
自分でも何をしているのかと自分をあざ笑う。
しかもこの夜という時間帯。
狩人はうじゃうじゃといた。
そこに狙われつつも逃げ切って俺も俺で、ある意味狩りをする。
「はっ・・・」
俺は山の動物の血液を頂戴する。
「くそマジィ・・・」
生グセェ。匂いがまず無理だ。
いくら飲んでも腹一杯にならない。
若い女の血液でも熟した血液でも、ダメだ。
もはや作業になっている。
俺はヴァンパイアとしてクソだ。
血をいただく、即ち命を頂いているのだ。
有難く頂戴なさらなければならないものを。
勘違いしてもらいたくないのだか、ヴァンパイアだって道徳心くらいあるさ。
それに狩人は何故ヴァンパイアだってだけで殺しにくるんだ。
意味がわからん、普通は魔界にいて動物の血液をもらってるんだぞ。
まぁ、もう理解されないと諦めきっているがな。
人間だって動物を食らってる。
俺たちヴァンパイアは悪いことは何もしてない。
なんなら人間の方が悪いんじゃないのか。
俺たちはいつも戦おうとして人間界にはいりこんでない。
なのに人間は見境なく俺たちを殺しにくるんだ。
おかしいだろ。
ヴァンパイアはいつでも人間の血を求めてるわけではない
まぁ、普段は、だけどな。
飢えを感じたら思わず、人間界に入って人間を喰らうやつもいる。
人間の血は極上の旨さであって、俺たちヴァンパイアの中では人生で一度は飲んでみたいと言われるものだ。
ちなみに俺も人間の血は好きだ。人間を目の前にしたら思わず食らいたくもなる。
それは人間もヴァンパイアも同じじゃないのか?
人間だってとてつもない空腹時に目の前に白米が出されたら思わず食らいつかないのか?
まぁ、白米の味なんて知らねぇが。
一歩裏の世界に入れば人間を攫ってくる悪い奴らもいる。
その人間たちを買った俺も相当な悪役。
・・・結局は、
人間もヴァンパイアも、お互い悪だ。
復讐に復讐を重ねる、悪だ。
ヴァンパイアに親族を殺された人間は、俺たちを殺す意識が高まって、
俺も、内田に殺されそうになって、
それで復讐を試みた。
俺は、悪だ。
それがスパイラルとなら、
人間はヴァンパイアを全員悪とみなして殺しにくる、
ヴァンパイアはある時本能に負けて、人間を食らってしまう獣になる。
俺は、今その獣に成り下がっているんだがな。
理性のない、ただの動物としての俺。
最近の俺は本当におかしい。
クズすぎて笑える。
そんな生活を1週間はしたか。
クソが、
今の俺、すげぇ悪食家だな。
美味いものを美味いものとして食らわない。
なんというクズヴァンパイアだ。
あー、
あれもこれも全部、
ゆりなのせいで。
「っ・・・」
俺は自分の口に滴る血を拭う。
あぁ、汚い。
はぁ、こんなことしてたら、もっと恨まれるんだろうな。
ほんと、ダメな俺だ。
なんで、ゆりなのこと忘れるためにこんな生活してんのに、
ゆりなのことばかり、考えてんだろうな。
「何してんだ・・・俺は。」
俺はそのまま木の幹を背にしてうな垂れた。
するといつのまにか日が落ちていた、
そして俺の数メートル前を狩人が過ぎる。
やっべ・・・。
けど、まぁ人間のフリしてればいいだろう。
いきなり動くのもよくない。
そして狩人達の会話に耳を傾けていた。
「・・・なさん、平気かな。」
・・・!?
俺の耳に入ってきた名前に、俺は更に耳を尖らせるように聞き入る。
ゆりなさん
そう確かに、二人組の結界師と狩人は言った。