唇にキスを、首筋に口づけを
インターホンがなり、
明るい返事をしようと試みてみたけれどそれは何故かできず、
変に低い声が出てしまった。
「こんにちは」
「・・・こんにちは」
久々に会う。
父や母を亡くした時も、彼女が遺言書を下さった。
ニコッと笑いかけてくれて。
私は中に通してコーヒーを差し出した。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
また私に笑いかけてくれて。
なんだか、私には眩しすぎた。
きっと、この人は、
いってらっしゃいとか、ただいまとか言い合える家族がいて、
時には喧嘩もしちゃったり、
深い話ができたり。
あぁなんか。
何でこんなに妬ましいのかな。
「それでは、
遺言書の破棄、ということでよろしいですね?」
彼女はファイルから私の実筆の封筒を取り出した。
「お願いいたします」
そう言うと、了解です、と笑ってくれて。
なんだ、わざわざ来ることだったの?
大したことじゃないし。
なるべく会いたくなかったんだけれども。
「そしてもう一つ。」
彼女はゴソゴソと鞄の中から取り出してきた。
「こちらです。」
スーッと、テーブルの上を滑らせて私の手元にやってくる。
「内田爽哉さんの遺言書になります。」
「・・・!」
な、なんでだ。
今までなんで爽哉の遺言書の存在に気づいてなかったんだ。
私バカだ。
私は思わずその場でそれを読み始めてしまった。
火葬にしてくださいであるとか父母と同じ墓にいれろだとか、
そして、
爽哉の財産全て、
私に相続するとか。
そして最後の行まで来て。
小さく、書いてあった。
"トレーニングルームの物入れの上から2番目の棚の底を見て。"
私はその文を見つけた瞬間、
遺言書を机に叩きつけてしまった。
まだ弁護士さんが相続等の説明をしている最中に。
そして弁護士さんがお帰りになられて、
私はダッシュでトレーニングルームに行くのだった。