唇にキスを、首筋に口づけを
私はトイレを済ませ、
トイレを出てすぐの壁に寄り掛かっていた。
ケータイを取り出す。
ディスプレイに映し出される時刻。
20:24
・・・爽哉、そろそろ行く時間だな・・・。
大丈夫かな・・・。
・・・、大丈夫でしょ。
爽哉は狩人の期待の新人なんだから。
強い、
もう、信じられないくらい。
あの若さで、あんなに強い。
だけど、
「帰りたーい・・・」
私は天井を見上げながら吐き出した。
「帰りたいの?」
私が呟いた次の瞬間、
私の右耳から声が届いた。
え、
肩が無意識に揺れた。
その拍子にケータイを落としそうになった。
バッと振り向くと、
さっきまで同席していた男性が。
茶髪で、
イケメンイケメンと私の友達が30分くらい前に騒いでいた男性。
私はこういうちゃらちゃらとしたヤツが昔から苦手だった。
「皆心配してたよ?
ゆりなちゃんの戻りが遅いから。」
ニコニコ、笑う・・・、
名前、何だったっけ。
こんな風に笑うのも、なんだか計算されているというか。
自分の顔がいいのを知っているというか、
駆使しているというか。
まあ、わかった。
この喋り方からして、私はこの男性の今日の狙いの的であるということは。
「・・・あ、すみません。」
ああ、嫌な人に本音がばれちゃった。
私は冷や汗が吹き出しそうだった。
次、なんか絶対言われるぞ。
私は軽く身構えた。
そして男の人は口角を上げた。
「じゃあ、
俺と抜け出さない?」
親指を外に向ける。
その瞬間に無造作にセットされた髪が靡いた。
「・・・」
私は身を強張らせた。
ほら、きた。
私がホイホイついて行けば、どうなるかなんて予想がつく。
・・・イヤ、なんだけど。
無理矢理に男は私の手を掴む。
「ちょ、離して!」
私は手を振り回す。
けど掴む手は力強い。
「いーじゃん、
俺、ゆりなちゃんに興味あるんだ。
何でそんなにつまんなそうなのか。
あ、もしかして彼氏いたりする?」
楽しげに振り返る。
「・・・」
「・・・いいだろ?」
急に耳元に顔が近づいたと思えば、
囁くように言い放ってきた。
「・・・!?」
生暖かい息が私の耳をかすめた。
き、気持ち悪・・・!!