唇にキスを、首筋に口づけを




私はトイレを済ませ、


トイレを出てすぐの壁に寄り掛かっていた。




ケータイを取り出す。




ディスプレイに映し出される時刻。




20:24




・・・爽哉、そろそろ行く時間だな・・・。




大丈夫かな・・・。




・・・、大丈夫でしょ。




爽哉は狩人の期待の新人なんだから。




強い、



もう、信じられないくらい。




あの若さで、あんなに強い。




だけど、





「帰りたーい・・・」




私は天井を見上げながら吐き出した。





「帰りたいの?」




私が呟いた次の瞬間、



私の右耳から声が届いた。




え、



肩が無意識に揺れた。



その拍子にケータイを落としそうになった。




バッと振り向くと、



さっきまで同席していた男性が。




茶髪で、


イケメンイケメンと私の友達が30分くらい前に騒いでいた男性。




私はこういうちゃらちゃらとしたヤツが昔から苦手だった。




「皆心配してたよ?


ゆりなちゃんの戻りが遅いから。」



ニコニコ、笑う・・・、

名前、何だったっけ。




こんな風に笑うのも、なんだか計算されているというか。




自分の顔がいいのを知っているというか、


駆使しているというか。




まあ、わかった。


この喋り方からして、私はこの男性の今日の狙いの的であるということは。




「・・・あ、すみません。」




ああ、嫌な人に本音がばれちゃった。




私は冷や汗が吹き出しそうだった。




次、なんか絶対言われるぞ。




私は軽く身構えた。




そして男の人は口角を上げた。




「じゃあ、


俺と抜け出さない?」




親指を外に向ける。




その瞬間に無造作にセットされた髪が靡いた。




「・・・」




私は身を強張らせた。



ほら、きた。



私がホイホイついて行けば、どうなるかなんて予想がつく。




・・・イヤ、なんだけど。




無理矢理に男は私の手を掴む。




「ちょ、離して!」




私は手を振り回す。




けど掴む手は力強い。




「いーじゃん、


俺、ゆりなちゃんに興味あるんだ。

何でそんなにつまんなそうなのか。




あ、もしかして彼氏いたりする?」




楽しげに振り返る。




「・・・」




「・・・いいだろ?」




急に耳元に顔が近づいたと思えば、

囁くように言い放ってきた。




「・・・!?」


生暖かい息が私の耳をかすめた。




き、気持ち悪・・・!!



< 22 / 257 >

この作品をシェア

pagetop