唇にキスを、首筋に口づけを



私はうえ、と顔を背ける。




その時だ。



バン、と背中に痛みが走る。




「いっ・・・」



私は今の自分の状況を分析する。



背中に壁、目の前には茶髪。



・・・所謂、壁ドンとやらか。




・・・っ、こうなるとは予想できなかったな・・・。




手首を掴み上げられてそれさえも壁に押さえ付けられている。




私の足の間にはヤツの足があり。



顔がグッと近づく。




「こうなるの、予想してなかった?」



挑発的な目。囁くような声。

気持ち悪く動く茶髪の前髪。




喉が凍ったようだった。




大きい声とか、出せるはずなのに。




もう、声は鎖骨あたりまできているのに、


口から出ていかない。




「こういう場にゆりなちゃんも来てるんだからさ、

男がどういう目的で来てるかわからなかった?」




「ッ」




離せこの野郎・・・!




叫びたいのに叫びたいのに・・・!!




目が伏せられた。




鼻先がぶつかりそうで。




ヤバい、これは、キスされる。




・・・っちょ、マジでそれはダメだよ・・・!




ファーストキスが無理矢理にとか嫌だ・・・!



私はもう最後の踏ん張り。



手首をバタつかせる。




・・・効果は皆無だったけれど。




もう、誰か助けて・・・!!




私は目に涙が浮かぶのかわかった。




その時だ。




「・・・離したら?」




凜とした声が聞こえた。




・・・!




・・・誰・・・?




光の影でよく見えない。




男の後ろにいる、ていう情報しか、わからない。




け、けど助かった・・・。




「あ?」




男はドスのきいた声でその声の主に返した。





「彼女、嫌がっているみたいだけど。」




淡々とした声。




でも助けてくれようとしているのは確かだ。




ドクン、ドクン・・・。




私の心臓が大きく波打つ。




「お前誰?」




男は警戒心をむき出しにして尋ねた。




「君に名乗る筋合いはないよ。



さっさとその手、はなせよ」




キッと口調が強くなる声の主。




「俺達こそお前に関与される筋合いねぇから。




行こう、ゆりなちゃん」




私の方に顔を向けてきた。




無意識に肩がビクついてしまった。




無理矢理にまた私の腕を引っ張る。




や・・・やだ・・・!




段々と心臓が痛くなるくらい、



何か、怖い・・・。




またもやヤバい、助けてよ・・・。




「はぁ・・・」




ため息が聞こえた。




そのため息が聞こえなかったのか、

男は歩き続けようとする。




ちょ、助けてよ・・・!



どうしよ、怖くて顔が上げらんない・・・。




「あまり、

手荒な真似はしたくなかったのだけど。

しょうがないかな」




そう、また淡々とした声の主。




言い終わった、と思った次の瞬間、


「いて・・・!!」



男の声。




・・・な、な、今、何が起こった・・・?




私は自分の手首が解放されていることに気づいた。




バッと顔を上げれば、



男が手を掴みあげられている。




「・・・通報されたくなかったら席に戻ったらどうだ?」




・・・そんな、また淡泊な声が。




・・・あ、



声の主・・・。




見ることができた。

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