唇にキスを、首筋に口づけを


それからというもの、ジュンはシルシが薄くなるとすぐにつけた。


首には特に重点的に。



首に何個シルシがあるだろう、5個は確実にある。




鏡で確認できないところにもあるだろうからまだあるかもしれない。




んん、この季節、マフラーやネックウォーマーで隠せるし、何も問題ないけどね。



そして、


ある日の夜だった。



その日は満月だった。



狩りの帰りにバイクに乗りながら、夜空を見上げて、とっても綺麗だと思っていたから。


ジュンに教えてあげよう、なんて思いながら帰っていた。




家について、エンジン切って、バイクにカバーをかけて。



ドアノブつかんで、ひいて。



「ただいま〜」



私は靴紐を解きながら声をかける。



けれど、なんの返事もない。



おかしいな、いつも駆け寄ってくるのに。



そしてなんとか固く結んでいた紐をほどいて靴を脱いで家に入る。



けれど、


真っ暗だった。



あれ、なんで、電気付いてないの?




悪寒が走った。


嫌な予感がした。



「ジュン・・・?隠れてるの?」




ジュンのいたずらだって、信じたかった。

パチン、と電気をつけてもそこには部屋が広がるだけで。




なんで。




私は探した、ジュンを。




二階の部屋、トイレ、お風呂場、クローゼット。



探せど探せどジュンはいなくて。


探せば探すほど、ジュンの私物が何もなくて。歯ブラシも、洋服も。


残るのは、ジュンの少しだけ獣くさい香りだけ。


そして呆然としてリビングに戻ると一枚の紙がテーブルの上にあった。






『ゆりなへ

さよなら いつかまた会うことがあれば。』



え・・・


私は固まった。



けど、なんとなく心の中で、あーあ、って思う自分もいた。



なんとなく、分かってた。わかってたよ。



ジュンが、いつかいなくなっちゃうことくらい。




ジュンとは、いつまでも暮らしてはいけないというくらい。






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