唇にキスを、首筋に口づけを



自分の席に戻った私。



・・・かなり馬鹿だと思う。




なんで何も考えずにに戻ったんだろう。




いるに決まってるじゃんか、あの男が。




私は席に戻っても、席には座れずに突っ立ってた。




どうしようどうしよう。




普通に何もなかったようにそのままこの空間にいるのか、私。




「どうしたー?座れば?」




友達がニコニコしながら言った。




「え、あ、うん」




私は目の前で風船が弾けたみたいにハッとした。




う、うう、座らないと不自然だよね。




そう思ってもすんなりは座れなくて、


椅子をひくのにかなりの時間がかかってしまった。




それこそ不自然極まりなかった。




座ったら座ったで、私の斜め前にはさっきのヤツ。




チラと見てみれば、水を不機嫌そうに飲んでいた。




う、うわ・・・。




私は自分の鞄を抱きしめていることしかできなかった。




「ゆりな」




声がした。




私がどうしていいかわからず戸惑っているときに。




私を呼ぶ声。




さっきまで、聞いていた優しい声色。




咄嗟に振り向けば、さっき助けてくれた彼がいた。




「・・・!」




「迎えに来た。帰ろう。」




ニコ、笑った。




え、え・・・?




「え、ゆりな彼氏いたの・・・!?」



私を誘った張本人である友達が大きな声をあげた。




「え、そうなの?」




相手側の男の人達が戸惑ったように視線を巡らせている。




・・・そういうことか。




私は彼に思考を読み取る。




彼氏のフリをしてくれるってわけか。




ありがとうございます、のらせていただきます。




「ありがとう」




私はニコッと作り笑顔をする。




「ごめんなさい、帰るね」




私は皆に一礼した。



そして席に背を向ける。




ごめんなさい、皆。



多分のこった皆は相当戸惑ってるし、この合コン自体崩れたかもしれない。




けど、後で必ず事情は話すから。




私はギュッと目をつむっていた。




そして私達は店を出た。



「ありがとうございます、色々と。



・・・そういえば、何で私の名前わかったんですか?」



店前で立ち話する私達。




「・・・あ、それはさっきの男がゆりなちゃんと、呼んでいたからです。」




ニコリとまた綺麗に笑う。




ああ、そういえばアイツがそう呼んでいたな。

納得。



その時、


「あっ!」




急に彼が大きな声を上げた。




え、な、なに!?




彼は右手を上げていた。




道路の方に視線を向けて。




ん・・・?




私は彼の目線の先を見る。




そこには一台のタクシー。




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