唇にキスを、首筋に口づけを
久々に再会したミラから着替えを受け取る。
ミラも眉をひそめ、複雑そうな顔つき。
そうだよな、俺の肩を持つような発言は迂闊にできない。
ミラは俺の専属。
しかし、ミラにとっての主人は親父だからだ。
なんだか、空気が一枚重い。
この屋敷に俺はまるで結界を纏って入っているかのような感覚。
距離がある。
いや、距離がある方がいい。
馴染めなくていい。
早く、ここから出たいのだから。
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翌日の夜。
それはもう、美しい満月。
しかし、満月の日はヴァンパイアの種族の力が一番低下する日。
最も警戒する日なのだ。
何故こんな日に見合いを・・・
国王の気が知れたものじゃないな。
俺はかっちりとした燕尾服を着て家を見送られながら出る。
「まぁ、ジュン様。
麗しい・・・!」
「ますますご主人様に似ていらっしゃるわね」
メイドたちの賞賛の声も翻らせて、
俺は馬車に乗り込む。
馬車の揺れが、俺の心情を表すようだ。
揺れるたびに、揺れる俺の心臓。
ドクン、ドクン、
と血が流れていく。
俺の中での重要な儀式だ、この見合いは。
失敗すれば国王、成功すればゆりな。
ああ、失敗することを想像しただけで頭がクラクラして倒れそうだ。
俺はなんとか気を持ち直して、なんとか顔を引き締めると、
いつの間にか国王の城までやってきていた。