ラブソングをもう一度
少しの静寂で、はっ、と我に返り、その場にしゃがみこんだ。
彼女と同じ目線になった俺は、もう一度、尋ねた。
「こんなとこに座って、どうかしたんですか?」
すると、彼女はふるふると首を振って、そしてゆっくりと手を伸ばした。
その手は、俺の手に添えられた。
真夏の熱帯夜に、そぐわない、彼女の冷たい手に驚いた。
「家は、どこ?送るよ」
彼女はまた、ふるふると首を横に振り、ゆっくりと口を開いた。
「家なんて、ない。お兄さんち、泊めてよ」
悩ましげな唇が、俺を誘う。
思えば、この瞬間から、俺は君にかなうはずなんてなかったのかもしれない。