ラブソングをもう一度
- side KAI
それは、いつものバイト帰りのことだった。
ふと、歩美にフラれたあの日のことを思い出した。
あの日、歩美と別れて、バイクにまたがった俺は、大通りの信号待ちをしていた。
ふと、歩道に目をやると、時計台の下でギターを抱えて歌う女の子がいた。
通行人は誰も立ち止まらない。
だけど、懸命に、高らかに歌うその女の子に目が釘付けになった。
信号が青に変わったと同時に、道の脇にバイクを停めた。
女の子の座る、時計台の下まで歩く。
俺は、はっと息を飲んだ。
今にも壊れてしまいそうなその声が、タイプだと思った。
あっという間に、何かを振り切るかのように、歌い続ける彼女に魅了された。
気付いたら、涙で女の子の顔が滲んでいた。
これは失恋の涙か。
それとも、この歌声に対する涙か。
「ありがとう」
歌い終えた女の子にそれだけ言って、ポケットの中に手を入れた。
誕生日プレゼントにと、用意した小包。
それを、ぎゅっ、と握りしめる。
そして、時計台の近くにある、自動販売機の横のゴミ箱に小包を放った。
「さよなら」
言えなかった歩美への台詞。
俺は、あの日からずっと立ち止まったままだった。