「キカイ」の子
「このレース勝負しろ。」



冬彦が言うより早く、透が口にした。



冬彦は驚いたが、


「うん。そうだね。」

と、頷いた。




「あの日は運動会で、オレとおまえは同じ徒競走に出た。というよりは、オレが、おまえのいるレースにわざと入ったんだけどな。」


「どうして?」


冬彦がそう訊くと、透はうつむいた。



透はしばらく床を見つめていたが、顔を上げて言った。





「オレが好きなやつの、好きなやつに勝ちたかったからだ。」


「え…?」


冬彦は、分からず、戸惑った。


「…夏美は、その時にはもう、おまえのことが好きだったんだよ。」



「え…鍬原さんが?」




冬彦はまた驚いて、固まってしまった。
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